透過電子顕微鏡の構成と結像原理

透過電子顕微鏡の概観を模式的に図7.2に示したが、一見して光学顕微鏡より複雑な構成となっている。電子顕微鏡の上部のフィラメントより発生した電子は、加速管、集束レンズを通って試料ホルダ先端の薄膜試料に入射する。数百keVの高エネルギーの電子線(光速の0.8倍程度の速度をもつ)が空気などのガスにより散乱されないように、顕微鏡内は真空に保たれている。試料で散乱された電子は対物レンズと投影レンズなどの結像系レンズを通ってカメラ室に到達する。通常、観測窓を通して、蛍光スクリーンに映しだされる顕微鏡像や回折パターンを観察し、最終的にはフィルムやCCDカメラで撮影することになる。

図 7.2:
\includegraphics[width =.75\linewidth]{s22.epsf}

一見複雑に見える透過電子顕微鏡について、その最も基本的な構成を、光学顕微鏡と比較して示したのが図7.1の光線図である。透過電子顕微鏡におけるレンズコイル(\includegraphics[height=0.5\baselineskip]{lens_mark.epsf})で示される電子レンズを光学レンズで置き換えれば、2つの結像過程は同一であることがわかる。A-Bの実線部を横にして拡大した図7.3の光線図を用いて、透過電子顕微鏡の結像原理が理解できる。試料に入射した電子線は、回折角2$\theta$で散乱され対物レンズの後焦平面上で一点に集束し回折点を形成する。電子顕微鏡では、この後焦平面上に形成される規則的なパターンを投影レンズを用いて蛍光スクリーン上に映し出すことにより、いわゆる電子回折パターンが得られることになる。ここで、電子レンズの焦点距離を変え、後焦平面の散乱波をそのまま通過させれば、蛍光スクリーン上に拡大像(電子顕微鏡像)を映し出すこともできる。このように透過電子顕微鏡では、電子レンズの焦点距離を変えることにより、回折パターン(逆空間の情報)と電子顕微鏡像(実空間の情報)の両方を観察でき、両者の情報をうまく取り入れた観察様式が利用されている。例えば、回折パターンの観察では、あらかじめ電子顕微鏡像(拡大像)を観察し、絞り(制限視野絞り)を挿入することにより注目する領域を選択し、電子レンズの焦点距離を変えて、その領域のみからの回折パターンを観察できる(制限視野電子回折法)。こうして、複雑な微細組織の個々の領域の結晶構造やそれらの結晶方位関係を知ることができる。絞りを挿入して制限できる視野範囲は、通常0.1$\mu$m$\phi$(径)程度であるが、最近の電子顕微鏡では、試料上に入射電子線を小さく収束させて電子回折パターンを観察する、いわゆるマイクロディフラクション法が開発されており、この場合には数nm$\phi$以下の微小領域からの回折パターンを観察することが可能である。

図 7.3:
\includegraphics[width =.75\linewidth]{s23.epsf}



Hitoshi TAKAMURA
2017-01-06