本節からは回折を取り扱います。結晶からの回折に先立ち、まずは2つの原子(電子でも良い)からの散乱を考えましょう。図3.7では散乱体A, Bに波数ベクトルの波が入射、散乱体により散乱され波数ベクトルとなる場合を考えます。なお、散乱は弾性散乱とします。よって、波数、、波の波長には、 が成り立ちます。観測点までの距離は十分に長く、それに比べて散乱波とが到着する地点は区別できない程近いと仮定します。散乱体を原子や電子とする場合にこの仮定は十分正しいです。
さて散乱波とが干渉し、強度が強くなる条件を考えます。図3.8に示すように、光路差が波長の整数倍であれば位相が揃い、散乱波は強まります。 は図に示すように、散乱体AからBに向かうベクトルと波数ベクトルの差の内積となります。このはをとするためのベクトルであり「散乱ベクトル」と呼ばれます。結果として 整数の場合に散乱波の強め合いが起こると言えます。
図3.9では、散乱波の強度がどのように表されるかを示します。オイラーの公式 を用いて指数形式で表すと計算が便利になります。n個の散乱体が存在し、それぞれの散乱体が入射波に対して散乱する能力(散乱能)が異なる場合も同様に計算が可能です。