種々の構造とその電子回折パターンの特徴

  1. 単純な構造の電子回折パターン

     面心立方構造は指数が総て奇数か偶数である反射のみが現われてる。また、体心立方構造では、指数$h,k,l$の和($h+k+l$)が偶数のみが現われている。ダイヤモンド構造は、面心立方格子とそれを $\frac{1}{4} \frac{1}{4} \frac{1}{4}$ずらした格子の二つの副格子でできており、その結果として、面心立方構造の電子回折パターンの反射の幾つかが消えている。最密六方晶構造の[110]入射およびダイヤモンド構造の[110]入射の電子回折パターンには二重回折反射が現われる。

  2. 単純な構造の電子回折パターン

     合金の中には、単純な基本構造を基に原子が規則的に配列し、規則構造をとるものがある。その場合、基本構造の反射(基本格子反射)に加えて、それらに比較して強度の弱い反射(規則格子反射)が現れてくる(図6.7)。種々の規則構造の回折パターンの特徴を頭の中に入れておけば、電子回折パターンから容易に規則構造が推測される。面心立方構造の規則構造であるCu$_3$Au型構造、および体心立方構造の規則構造であるCsCl型構造の電子回折パターンには、面心立方および体心立方構造で消えていた反射が規則格子反射として現われる。また、ダイヤモンド構造を基本とした規則構造、ZnS型構造にも、ダイヤモンド構造で消えていた反射が、規則格子反射として現われていることに注意したい。

    図 6.7:
    \includegraphics[width =.75\linewidth]{s18.epsf}

  3. 非整合構造(Incommensurate Structure)の電子回折パターン

     通常、規則格子反射は、基本格子反射間を整数で分割した位置に現われる。すなわち、実空間では、規則構造の単位胞が基本格子の単位胞の整数倍の大きさをもっている。しかし、一部の規則構造では、基本格子反射の間を整数分割した位置ではなく、非整数で指数づけされる位置に規則格子反射を生じるものがある。その時、実空間では、規則格子の周期が基本格子の周期の整数倍では表わすことができず、非整数倍の周期をとる。このような構造を、基本格子の周期のと変調構造の周期が整合しないことから、非整合構造[Incommensurate Structure]と呼んでいる。図6.8(a)は、Cu$_3$Pd合金の1次元の非整合構造の電子回折パターンであり、この場合、規則格子反射の間隔と基本格子反射の間隔を比較することにより規則構造の周期Mが求まり、この場合にはその周期Mは6.8になっている。また、図6.8(b)は、Tl-系超伝導酸化物の変調構造によって生じた規則格子反射の例である。この電子回折パターンから、規則格子の周期はc軸方向は2倍となっているがa軸方向では基本格子の5.9倍となっている。(a)の非整合構造は、原子の規則配列によって生じたものであるが、(b)の構造は、主に格子の変調によって生じたものである。

    図 6.8:
    \includegraphics[width =.75\linewidth]{s19.epsf}

  4. 散漫散乱

     SiC結晶などでしばしば観察される積層欠陥(面の積み重なりの間違い)あるいは微小双晶が多数現れた時に、面欠陥に垂直な方向に伸びた散漫散乱が現れる(図6.9(a))。この場合、回折点から伸びた一様な散漫散乱であるが、積層欠陥の出現にある種の相関があると、相関に対応したある種の強度分布をもって現れてくる。試料を傾斜することによって散漫散乱が1次元的に伸びていることが確認できれば、まずは面状の欠陥(板状の試料形状も含む)と考えるべきであろう。

    図 6.9:
    \includegraphics[width =.75\linewidth]{s20.epsf}

    1枚の回折パターンでは線状に観察される散漫散乱も、実際には面状に広がった散漫散乱の断面を見ている場合があり、こうした散漫散乱の強度分布を確認するには、結晶を傾けながらその電子回折パタ−ンを観察する必要がある。図6.9(b)は、$c^*$軸に垂直面内に広がった散漫散乱の断面として線状に観察されている例である。この散漫散乱は、1次元的な原子の並び(原子カラム)は決められているが、原子カラム間の配列が不規則化したために生じたものである。完全に無秩序化すれば一様な線状に延びた散漫になるが、カラム間にある相関があるために、強度分布が現われている。



Hitoshi TAKAMURA
2017-01-06