透過電子顕微鏡の必要性

物を拡大して見ようとする場合、光学顕微鏡(図7.1)が最も身近な機器として利用される。光学顕微鏡で見分けることのできる限界距離(分解能)dは光の波長$\lambda$とレンズの屈折率nを用いて

図 7.1:
\includegraphics[width =.75\linewidth]{s21.epsf}


\begin{displaymath}
d=\frac{0.61\lambda}{n\cdot sin\alpha}
\end{displaymath} (7.1)

と記述できる。ここで、$\alpha$はレンズの開き角であり、 $n\cdot sin\alpha$として1.5を、$\lambda$に0.5 $\mu$mの可視光の波長を代入してみると、光学顕微鏡の分解能は0.2 $\mu$m程度であることがわかる。したがって、ナノマテリアルの微細組織さらには原子配列を観察するためには、より高い分解能が必要であり、式(7.1)より、可視光よりも短い波長の光(電磁波)、つまりX線やガンマ線を使用する必要があることがわかる。しかし、この場合、可視光にはガラスのレンズが適応できたが、短い波長の電磁波に対してはレンズ機能をもたせる適当な物質が見当たらない。そこで登場するのが、電子線である。電子はド・ブロイ波としての波の性質を示し、加速電圧を上げることで十分短い波長の電子波が得られる。また、電磁石を用いて磁場を印加することによりローレンツ力を利用して、容易に拡大像を得るためのレンズ機能(電子レンズ)をもたせることもできる。電子顕微鏡の分解能d$_e$は、電子の波長と対物レンズの球面収差係数CSと電子の波長$\lambda_e$を用いて、


\begin{displaymath}
d_e=0.65C_s^\frac{1}{4}\lambda_e^\frac{3}{4}
\end{displaymath} (7.2)

と記述できる。汎用の300kV電子顕微鏡での電子の波長(0.00197 nm)と球面収差係数(0.60 mm)を式(7.2)に代入すると、0.17 nmが得られ、材料の微細構造が十分観察できることがわかる。



Hitoshi TAKAMURA
2017-01-06