独立行政法人科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(CREST) 家庭用燃料電池実現のための新たな高効率天然ガス改質システムの構築(2005年10月21日の新聞記事の詳細はこちら)天然ガスからの水素製造について地球温暖化や種々のエネルギー問題を克服するために、一刻も早い「水素エネルギー社会」の実現が期待されています。しかし、現在の太陽光、風力、水力といった自然エネルギーを利用した水素の製造量は予想される需要に対して十分でなく、21世紀前半は「天然ガスの積極利用」もしくは「天然ガス改質による水素の製造とその利用」が最も現実的かつ効率的なエネルギーミニマム型社会実現の選択肢と考えられています。天然ガスは、予想可採年数が250〜500年とも言われており、石油に比べて豊富な、かつ、世界中に広く分布した安定供給が望める資源です。また、硫黄酸化物を含まないことや、二酸化炭素排出量が石油に比べて約2/3と低いことから、地球温暖化抑止効果のある燃料とも言われています。従って、今後日本のエネルギー需給に占める天然ガスの割合が増加すると予想され、その新たな利用技術の開発は重要な課題です。 天然ガスの利用に関しては、例えば、マイクロガスタービンを利用する分散型小型コジェネレーションシステムの開発が盛んに研究されています。さらに高効率な発電システムとして期待されている燃料電池は、FCEVへの搭載に加えて、近い将来各家庭に発電機付給湯器として導入されると予想されます。従って、今後、燃料電池自身を開発することに加えて、その原料である水素を安価で高効率に製造し供給する技術の確立が必要とされています。 天然ガスからの水素製造には、下記に示すように水蒸気改質法、炭酸ガス改質法、部分酸化改質法などがあります。本研究では、発熱反応であるため起動性に優れる部分酸化法を利用した改質器の開発を目指しています。しかし、これまで部分酸化法は、空気を酸化剤として利用した場合、得られる水素濃度が低く、また天然ガスと空気を同時に供給することから操業性・安全性に問題点があると指摘されていました。
そこで、本研究では、天然ガスから安価にしかも高効率に水素を製造する新たな技術として、「酸素透過性セラミックスを利用した部分酸化法とプロトン伝導体による水素分離技術を融合した新たな水素製造システムの構築」を目指しています。その概略を下図に示します。このシステムにおいて左から導入された天然ガスは、酸素イオンのみを透過できる酸素透過性セラミックス管によって空気から分離された純酸素と触媒の存在下において部分酸化反応を起こし、一酸化炭素と水素の混合ガス(合成ガス)を生成します。 酸素透過性セラミックスにより生成された合成ガスは、シフト反応によって水素を増量した後、プロトン伝導性セラミックスによって水素のみが高効率に分離されます。ここで生成される水素は、固体高分子型燃料電池を被毒劣化させる一酸化炭素を全く含まない純水素です。このシステムの実現を目指してプロジェクトチームにより研究を進めていますが、我々のグループでは、キーマテリアルである酸素透過性セラミックスの開発を行っています。 酸素透過性セラミックスについて酸素透過性セラミックスは、下図に示すように酸素イオンと電子を同時に伝導できる混合導電体と呼ばれる緻密な材料であり、この材料を透過しうるのは酸素のみです。この酸素輸送のためには電圧印加は必要なく、単に酸素ポテンシャル勾配が存在すればよいことが特徴です。すなわち、酸素透過性セラミックスは、天然ガス改質に必要な純酸素を必要な量だけメタンガス中に供給しうるインテリジェント材料です。 酸素透過性セラミックスの天然ガス改質への適用を考えるとき重要な特性は酸素透過量です。酸素透過量の単位には単位時間・単位面積当りに透過する酸素のモル数であるmol・cm-2・s-1がよく用いられます。また、透過する酸素の流量(標準状態)を用いたsccm・cm-2も使われます。これらは以下の式で換算され、電流密度( mA・cm-2)として表すことも可能です。 1μmol・cm-2・s-1 = 1.34 sccm・cm-2 = 386 mA・cm-2 例えば、1μmol・cm-2・s-1の特性を示す物質では1cm2・1分間当り1.3ccの酸素が透過してくることになります。これまでに高い透過量を示す物質としては、ペロブスカイト型構造及びそれに関連する構造を有するLa-Sr-Fe-Co系、Sr-Fe-Co系、La-Sr-Ga-Fe系の酸化物が知られており、約1〜8μmol・cm-2・s-1 の値を示します。酸素イオン・電子混合導電性に起因する酸素透過量は以下の式で理論的に求めることができます。 ここに、σel, σionは各々電子、酸素イオン伝導度、R, Fは気体定数とファラデー定数、またT, dは温度とセラミックスの厚さです。また、積分は空気側の酸素分圧P(O2)'から合成ガス中の酸素分圧P(O2)"までとっています。この式をもう少し分かりやすく説明すると下図のようになります。 この図は横軸に酸素分圧の対数、左軸に電気伝導度、右軸に酸素透過量を示しています。一般に、イオン伝導度は酸素分圧に依存せず一定の値を示す赤点線、電子的伝導度(p型,n型)は正及び負の傾きを有する赤点線のようになります。ここで、通常テスター等を用いて測定される全電気伝導度σtotalはイオン・電子的伝導度の和なので、赤実線のような挙動を示します。これに対して、酸素透過速度 j(O2) を求める式中の積分中の値(アンバイポーラ伝導度)は緑実線で示すように、イオンおよび電子的伝導度の低い方で制限された形となります。よって積分は図中の緑色でハッチングされた領域の面積に該当し、 j(O2) はこの面積に各種定数や温度等を掛けた値となります。つまり、酸素透過量を増加させるには緑色でハッチングされた領域の面積を増加させること、すなわちイオンおよび電子的伝導度の低い方を向上させること、および膜厚dを減少させることが必要となります。 研究課題について我々の研究グループでは高い酸素透過量を示し、かつ、強還元雰囲気下でも化学的に安定な新しい酸素透過性セラミックスの探索を行っています。具体的には、
等を中心に研究を展開しています。
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