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海外インターン体験記(D2戸村)

 8月から10月の約3ヶ月間、韓国の KAIST (Korea Advanced Institute of Science and Technology) の Prof. Woochul Jung の研究グループにインターンシップに行ってきました。KAISTは韓国トップクラスの理工系大学で、アジア・世界レベルでも高い評価を受けている教育・研究機関です。また、Prof. Jung のグループは僕の研究テーマと近しい導電性セラミックス材料や触媒を扱っており、短期間で素晴らしい業績を数多く達成されています。6月の国際学会で Prof. Jung に直接お会いする機会があったので、そこで直接お話させていただき、快くインターンシップを受け入れていただきました。海外での研究経験は、国際的なコミュニケーションの幅を広げるとともに、自分の研究を見つめ直して新たなカルチャーを取り入れる絶好の機会になりました。今回はその体験記を綴ろうと思います。





 KAISTのランドマークの噴水と中央図書館



 KAISTは韓国の真ん中よりもやや西あたりのテジョン(大田)広域市に位置しています。小さめの地方都市といった感じで、大学や大企業、国の研究機関が集中している地域です。日本でいうと筑波に似ているかもしれません。内陸の盆地なので、8月は最高気温が33℃前後の日が続き、かなり暑かったです。一方、10月中旬以降になると寒暖差が激しく、早朝は7℃なのに昼間は21℃といった日もありました。それでも、一年で最も過ごしやすい初秋をインターンの間に満喫できたので、概ね良いタイミングでした。真冬は頻繁に雪が降る上、仙台よりもずっと寒いらしいです。



 8月、初めてKAISTに着いたときの最初の感想が「でかい!」でした。とにかく敷地が広大で、こんなに要る? と疑問に思うほど広場があって、大学というより巨大な公園といった感じでした。図書館の前には噴水付きの大きな池(夜はライトアップ)があり、大きな運動場や体育館には立派な観客席が付いていてスタジアムの様でした。あとで研究設備についても触れますが、とにかく設備が充実していて、投資されている金額がすごいんだろうなあ、と考えていました。それだけ期待され、なおかつ成果を出している、ということなのでしょう。



 通常、インターンシップでは受け入れ先が提示するテーマの研究を行うことが多いのですが、今回は先方のご厚意により、私の方から研究テーマを提案してそれに取り組む形となりました。自分の博士論文研究を海外の著名な研究者からアドバイスをもらいながら遂行できる機会は滅多に無いので、今回の体験はとても貴重なものでした。研究遂行にあたっては、主に博士課程のSangwoo君と、修士課程のDonghwan君に面倒を見てもらっていました。2人とも、とても親身になって私の研究を手伝ってくれました。他の学生も、私が困っていたらすぐに声をかけてくれたり、食事やスポーツに誘ってくれたりと、とても親切でした。





 研究グループメンバーの集合写真



 KAISTのレベルが高いこともあるとは思いますが、研究に対する学生のモチベーションが非常に高かったことが印象的です。大学を出た後はどうするのか、と訊いてみたところ、大学教授になりたい、とか、国や大企業の研究所に勤めたい、といったような回答が帰ってきました。そういった夢を叶えるために、KAISTではほとんどの学生が博士課程まで進学するそうです(兵役が免除になる、といった背景もあるようですが)。学生の高いモチベーションと、その意気込みを研究成果としてアウトプットするための優れた研究設備によって、質の高い研究が短期間で遂行されているのだな、と感じました。



 また、研究遂行の上では頻繁なディスカッションが大切だと改めて気付かされました。先方の学生たちは、普段はもちろんコーヒーブレイクや食事のときにもお互いの研究について語らい合っていました。気分転換をしながら研究の話をすることで、ひらめきが生まれることもあるようです(余談ですが韓国では研究予算の一部は食費に充てられる決まりらしく、コーヒーブレイクなどが研究に必要な時間として認知されているということなのでしょう)。日本の学生が苦手とする(と私は思っている)相手の意見に対する批判・反論もきちんとこなしていました。加えて、有用なディスカッションの前提となる「自分の研究内容を簡潔・明解に相手に伝える技術」も洗練されていました。週一回グループで行われる進捗報告会では、どの学生も「相手に伝わる」プレゼンを心がけることで、プレゼン後のディスカッションがより有意義なものになっていたと感じています。個人的にはこの点が一番見習いたいと思いました。



 KAISTでの生活は、海外生活という点である程度の不便さはあるとしても、大きなトラブルなく日々を過ごすことができました。学生寮は僻地にありましたが、無料シャトルバスで大学や市街地にも出かけることができました。困ったことを挙げるとすれば食事です。唐辛子大国の韓国では、学食の定食メニューの半分は赤く染まっています。私は辛いものが特別得意でも苦手でもないといった感じですが、一般に「韓国の中辛」は「日本での辛口」くらいの認識のずれがあるので、私は韓国の「辛め」の味付けの料理は食べられませんでした。私は先方の学生とレストランに行くと、「これって辛い?」「僕らは辛くないけど君にとっては辛いと思うよ」「そっか、やめとくわ…。辛くないやつどれ?」みたいな会話を毎回していた気がします。それでも、「甘口」の料理は美味しくいただけましたし、辛くない料理が欲しいときは大学近くの日本料理屋「よしだ」で牛丼やうどんを食べることもできました(「日本の味」とはちょっとズレてましたがそれはそれでイケました)。



 今回の韓国での滞在は日韓の国際情勢が良くない時期と重なってしまいましたが、現地でトラブルに巻き込まれたことは全くありませんでした。報道ではデモや不買運動が頻発しているとされていましたが、それらを見かけたことも皆無です(むしろ「よしだ」は現地の学生で賑わっていました)。実際、先方の学生やスタッフは私が日本人と分かっていても、分け隔てることなく親切に接してくれました。例えば、私の滞在中に研究グループを抜けて国の研究機関に就職したポスドクの方は、私が日本に帰る直前に開かれたお別れパーティにわざわざ仕事を抜けて駆けつけてくれました。もちろん複雑な歴史的・国際的事情があるのでお互いをよく思っていない人もいるでしょうが、そういった人々が大多数とは限らない。メディアではネガティブな話題ばかりが取り上げられますが、決してそれらが全てではない。そういったことを身を以て体験しました。現地の学生と日韓関係について話もしましたが、「複雑な問題はあるけど、いがみ合っていても何も良いことはない。お互いに歩み寄れたらいいね」という意見で一致しました。個人的には両国の関係改善を祈っています。



 今回の約3ヶ月に渡るインターンシップは、研究遂行に必要な知識とスキルを養うという点、そして異国の文化を肌で感じ学ぶという点において、とても有意義なものでした。このような貴重な機会を与えてくださった、Prof. Jungをはじめとする関係各位に心から感謝いたします。





 私のお別れパーティにて。